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「在来種(固定種)は自家採種禁止から外す」に安心していませんか? – 種苗法改正の盲点 –

前回の記事では、種苗法改正の概要、ポイント、影響を述べました。
☆参考丨食材の高騰、安全な食材の不足が加速 – 種苗法改正について –

種苗法改正については、ニュースやSNSでも一部伝えられていますが、とても気になった点があり、この記事を書くことにしました。

それは「在来種(固定種)は自家採種禁止から外れるため、即座に農家を脅かすものではない。安心していい」という論調でした。

これは、新自由主義・グローバリズム政策に反対する方や、種苗法改正に反対する方、在来種で自然農や有機農をされている農家の方の中でも一定数見られる見解であり、驚きました。

本記事では、その「安心論」に対して問題を提起します。
 ※在来種(固定種)と登録品種の定義や違いは参考記事をご覧ください

まず、大前提として「 在来種(固定種)と登録品種を確実に見分けられるのか」という問題があります。


注目をしていただきたいのが「そもそもの見分け方に不安がある」という点です。農水省は在来種と登録品種を見分けるにあたって「特性表」と「人的能力」で対応をするとしています。

特性表とは、品種の特性を「表」で示したものであり、葉、根、大きさ、色などの特徴を表にし、文字でまとめられています。登録品種は特性表を使い登録されており、この表をもとに、登録品種なのかそうでないのか?を見分けるようになっています。

農水省は主に、この特性表を使いながら「登録品種なのか?在来種なのか?」を担当者の人的能力(目視)で見分けると主張しています。
※これには、遺伝子解析によるデータ分析ができず、特性表や人的能力で見分けるしか方法がないという背景があります。

そうなると、論点となるのは「特性表と人的能力(目視)で登録品種と在来種を本当に見極められるのか?」という点です。
それは、以下の理由から見極めが困難となると容易に予想されます。

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☆追記(「特性表」で判断するというのが重要なポイントなのでQ&Aで解説します)

Q丨遺伝子解析(DNAマーカー)で対応不可とする論拠はなんでしょうか。
A丨農水省の「第6回 優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会(P8)」にて、既知の特定の品種間を識別することには有効であるが、DNA配列と植物体の特性の関係が現時点でほぼ不明としています。

Q丨過去の判例(平成27年6月24日知財高裁)で「現物主義」による判決がとられているので、特性表で判断するというのは間違いではないか。
A丨農水省が「第6回 優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会 (P8) 」にて「現物主義」では訴訟を起こしたタイミングでその現物が存在しない(つまり、種苗が変化をしているため)ので、より育成者権(開発者の権利)を強化するために、品種登録時の特性を「特性表」で記し、それを根拠に侵害を立証できるように進めています。

Q丨比較栽培での対応が可能なのではないか。
A丨上記の現物主義と関連しますので、参考にしながらご確認ください。比較栽培時に、権利侵害を主張するためには「品種登録時の種苗」が必要となっています=「現物主義」。しかし、品種登録時の種苗を保管することが困難として「特性表」を根拠に侵害を立証できるように進めています。
☆参考丨 国内外における品種保護をめぐる現状 (P4)

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①種は変化する
種はその土地々々の気候や風土に根ざした変化をしていくため、同じ在来種と言えど、その環境に適応した変化をしていくことになります。
このように、種は変化することを当たり前として考えなければならず、常に同じ形状や特徴を持つことがありません。
もし、在来種が土地や気候の変化により登録品種に近い形質となった時、どのように判断をしていくのでしょうか。

②交雑の問題
更に、交雑の問題があります。
海外では、登録品種(遺伝子組み換え作物)が風にのって農家の作物と交雑し「知的財産権を侵害した」として、企業から訴訟されるケースが多発しています。
農家が意図せず、しかも、防ぎようの無い状況にもかかわらず、交雑をすれば訴訟され、敗訴にまで至っています。
日本でも、何らかの登録品種が在来種と交雑し、登録品種に形状や特質が似た場合、訴訟を起こされることが容易に想定されます。

③品種の多様性
①②だけでも「確実に見分ける」ということが如何に困難かを理解できますが、加えて、作物にはいくつもの種が存在するという当たり前の事実があります。
例えば、大豆においては何万種。大根は何千種もの種があるわけで、これら細かな特徴を持つ品種を「特性表」や「人的能力」だけで見極めることは、非現実的だと言わざるを得ません。

上記①~③がある中で「在来種(固定種)は守られる」という論調がいかに曖昧で、実現の難しいことかがおわかりいただけるかと思います。

登録品種は、品種登録時に特性表等を使い、その知的財産権が守られていますが、在来種にはそのような権利が保証されておらず、先述したように「自然の変化」「交雑」「品種が多い」等の理由で、一体どの作物、どの品種が登録品種なのか?在来種なのか?わからない、グレーな状況にあると言えます。

この大きなグレーゾーンがあるということは、その中で、知的財産権を巡る訴訟リスクは必然的に高くなります。
そして、農家が対峙しなければならない相手は、登録品種を広めたいモンサント社などの外資系アグロバイオ企業となります。
これら有力な弁護士を抱え、ロビー活動や訴訟に長けた大資本を持つ企業と、一農家が訴訟となった時、どちらが有利かは一目瞭然です。

近年、バイオパイラシー(生物的海賊行為)が問題となっています。
バイオパイラシーとは、生物資源に対してアグロバイオ企業が特許を取得し、利益を専有する行為です。
この言葉が象徴するように、アグロバイオ企業は利益源として、バイオパイラシーを行っており、グレーゾーンを如何に企業側の利益に持っていくかを考えています。

在来種は法的に守られておらず、グレーゾーンがある中で、「在来種(固定種)は自家採種禁止から外れているから安心」という姿勢では、取り返しのつかないことになりかねません。

自家採種原則禁止とする種苗法改正は2020年3月3日に閣議決定されましたが、これからは種子法廃止を受けて都道府県が種子条例を制定したように、地方自治体から種苗法改正に対する条例を制定し、在来種(固定種)を守っていかなければなりません。

そのためにも、今回の種苗法改正の論点や問題点を明確にし、正しく声をあげていく必要がありますし、その理解促進に本記事がお役に立てればと考えています。