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【改訂版】食材の高騰、安全な食材の不足が加速 – 種苗法改定について –

スライドに対して解説をする形式で、本記事を進めていきます。

本記事で使うスライド一式となります。
これ以降は、上記スライドを引用しながら、そのスライドに解説を加える形式で進めていきます。
※ このスライドを見ていただくだけでも、凡そご理解いただけるように構成しています。




■ この記事で得られる情報

種苗法の改定により「農家が自分で育てた作物からタネを再利用する=自家採種」を行う権利が無くなろうとしています。

これは、農家だけでなく、消費者、国家の食料安全や食料自給の問題にも関わる法改定となります。「種苗法」という言葉を初めて聞く方でも、なるべくわかりやすくご理解いただけるよう、記事にまとめました。


■ 種苗法とは何か(制定の背景とポイント)

まず種苗法が何かを簡単にお伝えします。この法律は、野菜や果物、穀物(米・麦・大豆など)、また草花も含めた「種苗=植物のタネと苗」の「知的財産権」を守る法律となっています。


現在、私達が食べている野菜や果物、穀物は品種改良が加えられているものも多く、それら品種改良は開発者(種苗企業)が時間や手間をかけて開発をすることが一般的です。
「一定の時間や手間をかけて開発を行うのだから、その分の知的財産権を守って欲しい」という開発者側の要望から制定されたのが、種苗法となります(1998年5月29日公布)。


ここまで聞くと「開発者への知的財産権の話ね」と納得されるかもしれませんが、そこには常に疑問が投げかけられていました。
特に、農家サイドからは「そもそも、空気や水のように共有財産であるはずの種苗に、知的財産権を認めるのはおかしい」という声も多く、議論が絶えませんでした。


このように、開発者からは「知的財産権」が強調され、農家からは「タネは公共財であり皆のものである」と強調されるため「開発者(企業)と農家の権利をどうバランスさせるのか?」という点が、種苗法制定時の大きなポイントとなりました。
そこで種苗法では、開発者と農家のバランスをとる形として、開発者側には、開発した種子の独占権を与えることに加え、農家などのタネの購入者は、その種子を販売・転売することを禁止としました。
反対に、農家には購入した種子を転売・販売することを禁止するが「タネを再利用(自家採種)できる」よう認めることで、バランスをとってきました。


しかし、ここまで開発者と農家の権利のバランスをとってきた種苗法を、2020年の種苗法改定案においては「農家の自家採種を原則、一律禁止とする」ことが検討されており、大きな問題となっています。
これまで開発者と農家の「権利のバランス」をとってきた種苗法が大きく、開発者側へ有利な法律として、改定されようとしています。





■ 改定案の最大の問題点である自家採種一律禁止と反論

なぜ、農水省は自家採種を禁止としたいのでしょうか。
その目的として農水省が掲げているのが「種子の海外流出を防ぐため」とされています。
現在、国内で品種改良した「いちご」や「ぶどう」等が、韓国や中国に流出し、栽培・販売されているケースが出てきており、これらを防ぐために「種苗法の改定(自家採種禁止)を行う」というのが、農水省の主張となっています。


しかし、この農水省の主張は、論理的におかしいと言われており、その理由が以下となります。

①そもそも海外流出に対して、国内法の適用が曖昧であり、もし海外流出を本当に防ぎたいのであれば、海外で商標登録する方が重要であるということ。
※農水省は以下の記事で、そのことを明言しています。
☆参考丨 【農林水産省から】海外における品種登録の推進について

②(UPOV加盟国以外の)海外流出は現行の種苗法でも十分に対応できる内容であること(種苗法第二十一条四項)

③海外流出した場合、刑事告訴することの方が適切な対応とされていること。

岡山の自民党議員の方が「ウチもソトも規制を強めることで流出を防ぐ」発言がありましたが、上記で見た通り、改定をせずとも「ソト」を防ぐ手段が、農水省が認める程に十分あります。
後述する通り「ウチ」をわざわざ規制強化することで発生する農家の方への圧迫、そして、大手グローバル種子企業が市場へ一層、介入するデメリットを鑑みると、詭弁と言わざるを得ません。

「韓国や中国に種苗の権利が奪われる。だから種苗法改定に賛成!!」という方は、現行法やその他の手段で対応できる以上、国内農家の自家採種禁止だけが残る、農家・関係者・消費者、そして日本にとって理不尽な法改定になっていることに気づいていただきたいと思います。


ここの2つのスライドでは、よくある賛成派の方の意見(反論)を入れています。
「UPOV加盟国には抜け道があるではないか(だから、自家採種一律禁止は必要である)」という主張ですが、結局、UPOV条約が国際条約でである以上、日本国内の法律で規制と強めようが、上位に来るため無意味です。
それを知っているからこそ、農水省は2017年11月に「海外での品種登録が唯一の手段である」と主張しているわけです。

この点の詳細については、以下のスライドでも解説しているのでご参考ください
☆参考丨なぜ、種苗法改定案で海外流出は防げないのか


ここまで見ると、今回の種苗法改定において「自家採種禁止」する目的が、品種改良した種子の海外流出を防ぐことであったにも関わらず、その目的は種苗法を改定せずとも達成できる以上、「農家の自家採種禁止」「農家への悪影響」だけが残される、本末転倒な法改定案となっていることがわかります。
この点が、現在の種苗法改定案における最大の問題点となっています。


■ 農水省が主張する安心論に対する反論とその危険性

そのような中で農水省は、自家採種禁止を懸念する声に対して「自家採種を行うために必要な在来種は、自家採種禁止の対象から外れるので安心してほしい」という主張を行っています。


農水省が主張する「在来種は自家採種禁止から外す」という言葉により、一見安心できるように思いますが、実は、その見解自体が曖昧で、リスクのあることだとわかっています。


注目をしていただきたいのが「そもそもの見分け方に不安がある」という点です。農水省は在来種と登録品種を見分けるにあたって「特性表」と「人的能力」で対応をするとしています。

特性表とは、品種の特性を「表」で示したものであり、葉、根、大きさ、色などの特徴を表にし、文字でまとめられています。登録品種は特性表を使い登録されており、この表をもとに、登録品種なのかそうでないのか?を見分けるようになっています。

農水省は主に、この特性表を使いながら「登録品種なのか?在来種なのか?」を担当者の人的能力(目視)で見分けると主張しています。

そうなると、最大の論点となるのは「特性表と人的能力(目視)で登録品種と在来種を本当に見極められるのか?」という点です。
それは、以下の理由から見極めが困難となると容易に予想されます。


①種は変化する
種はその土地々々の気候や風土に根ざした変化をしていくため、同じ在来種と言えど、その環境に適応した変化をしていくことになります。
このように、種は変化することを当たり前として考えなければならず、常に同じ形状や特徴を持つことがありません。
もし、在来種が土地や気候の変化により登録品種に近い形質となった時、どのように判断をしていくのでしょうか。

②交雑の問題
更に、交雑の問題があります。
海外では、登録品種(遺伝子組み換え作物)が風にのって農家の作物と交雑し「知的財産権を侵害した」として、企業から訴訟されるケースが多発しています。
農家が意図せず、しかも、防ぎようの無い状況にもかかわらず、交雑をすれば訴訟され、敗訴にまで至っています。
日本でも、何らかの登録品種が在来種と交雑し、登録品種に形状や特質が似た場合、訴訟を起こされることが容易に想定されます。

③品種の多様性
①②だけでも「確実に見分ける」ということが如何に困難かを理解できますが、加えて、作物にはいくつもの種が存在するという当たり前の事実があります。
例えば、大豆においては何万種。大根は何千種もの種があるわけで、これら細かな特徴を持つ品種を「特性表」や「人的能力」だけで見極めることは、非現実的だと言わざるを得ません。

上記①~③がある中で「在来種(固定種)は守られる」という論調がいかに曖昧で、実現の難しいことかおわかりいただけるかと思います。

この「大きなグレーゾーン」があるということは、その中で、知的財産権を巡る訴訟リスクは必然的に高くなります。

そして、農家が対峙しなければならない相手は、登録品種を広めたいモンサント社などの大手グローバル種子企業です。
これら有力な弁護団を抱え、ロビー活動や訴訟に長けた大資本を持つ企業と、一農家が訴訟となった時、どちらが有利かは一目瞭然です。

近年、バイオパイラシー(生物的海賊行為)が問題となっています。
バイオパイラシーとは、生物資源に対してグローバル種子企業が特許を取得し、利益を専有する行為です。
この言葉が象徴するように、グローバル種子企業は利益源として、バイオパイラシーを行っており、グレーゾーンを如何に企業側の利益に持っていくかを考えています。

在来種は法的に守られておらず、グレーゾーンがある中で、「在来種(固定種)は自家採種禁止から外れているから安心」という姿勢では、取り返しのつかないことになりかねません。


「特性表」ではなく「遺伝子解析」や「現物比較」で農水省は対応できるのではないか。という声もよくいただきますが、上記スライドのように、農水省がそれを否定しています。
ここまで見てきた通り「特性表」という現実味の無い手段で、開発者が訴えやすいようにしていく流れがここでもみえてきます。





■ 種苗法改定が与える農家・消費者・国家への影響

種苗法に違反した場合の罰則が重い点も、特徴的です。
10年以下の懲役に加え、1000万以下の罰金が併科されます。
※法人の場合は「3億円以下の罰金」

更に、共謀罪の対象ともなるため、関係者も罰せられることになります。
現在、地方でも行われる種子の交換会でも、参加した方が罰せられることになりますし、更に「準備行為」も対象となっていることから「話し合いに参加した」程度でも、罰則の対象となります。

これほど重い刑罰となると、農家、また関係者が萎縮し、開発者(企業)側にパワーバランスが傾くことが容易に想定されます。


実は、種苗法改定は制定時から現在まで、定期的に行われており、自家採種禁止作物の数は年々増加傾向にありました。
ここ数年での増加は例年になかったペースであり、その総仕上げとして今年(2020年)に「原則、自家採種禁止」という、農家の権利を完全に無視した法改定がなされようとしています。


ここから、農家や消費者、国家に起こりうるリスクをお伝えします。

まず、 自家採種禁止における、農家への影響として、農家のコスト負担が増えるようになります。
毎年「自家採種をしながら作物を育てていた農家」は、当然ながらタネを定期購入しなければなりません。
あるいちご農家では年間1000万の負担増。ウドの栽培農家では年間310万円の負担増(この方は米、麦、大豆等の主要農作物も自家採種であるため更に負担が増します)と言われています。
☆参考丨『タネは誰のもの〜種苗法改定で農家は?』ショート版

穀物類(米、麦、大豆など)を自家採種していた農家は、2018年に廃止された種子法廃止の影響で、企業米を買わざるを得ない状況になる可能性が高まります。
☆参考丨日本のお米が遺伝子組み換え&高級食材に – 種子法廃止が与える影響について –

いちご、イモ類、サトウキビ、りんご、みかん等は自家採種されることが多く、自家採種禁止による影響範囲の広さがわかります。

日本で自家採種をしながら農業を営む農家は多く、ただでさえ、日本は農家に対する補助金・助成金が少ない国であるにも関わらず、コスト負担の増す農家はどのように農業を営んでいけるのでしょうか。


消費者に与える影響としては、(農家の負担するコストも増すため)私達の食品購入コストが上がることになります。
また、自然農法や有機農法の作物は自家採種のできる「在来種」と相性が良いため、使用頻度が高くなりますが、先述のように在来種を使うと訴訟のリスクが高まるとなると、それを行う農家も少なくなり、安心・安全な食材の流通が不足する可能性が高まります。


最後に、国家に与える影響を見ていきます。
もし、自家採種が一律禁止となった場合、国内農家の多くが、タネを企業から買うことになります。
それはつまり、このグラフの通り(国内の種苗会社は世界の種苗会社に比べると規模が小さいため)外資系企業に、自国の食生産の根源となる「タネ」を握られてしまうことになります。
有事の際に、日本国のみで食料安全や自給が確保できず、国家安全の問題にまで影響していくことがわかります。
海外の企業に自国の「食」をコントロールされる状態は、非常に危うい状態と言えます。この点はSHIFT内の別記事でも、今後書いていく予定です。


世界では、自家採種を含めた農家の権利を守る流れが、活発になっています。

国際連合は「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」において、自家採種を含めた農家の権利を強調し、EUでは2020年より有機栽培農家の自家採種が自由となります。
更に、ブータンでは、インドやネパール等、9カ国と条約を結び、自国で品種改良したタネを相互利用できるようにしています。
日本も批准しているITPGRにおいては、農民の権利として自家採種の原則自由を認めており、日本はこれを批准しているにもかかわらず、逆行した法改定に進んでいます。

これらの動きは「タネは本来、人類の共有する遺産であり、公共財である」ことを強調するものであり、日本が進もうとしている「自家採種一律禁止」を強調することが、いかに時代の流れに逆行していることかが、世界の動きをみてもわかります。




■ 種苗法改定に関する映画が完成しています。オススメです。

種苗法改定に関する映画が2020年10月に完成しています。
実際に影響を受ける農家の声、最前線で声をあげる専門家の声を聞くこと、見ることが一番インパクトがあります。
SHIFT記事の中でもオススメする理由をまとめているので、ご参考ください。
☆参考丨映画「タネは誰のもの」の見どころとオススメする理由


■ 補足資料

農水省は自家採種禁止対象が「わずかである」としていますが、全くそんなことはなく、この2枚のスライドのように、多くの農家の方がその影響を受けてしまうことがわかります。
この2枚のスライドは食と農の専門家である印鑰智哉様の「農水省が発表している種苗法に関するQ&A」に対する反論記事を引用しています。


今回の種苗法改定案は「自家採種一律禁止では大手グローバル種子企業による独占リスクが高まる」ため反対なのであり「国内開発者の方を支援する」という志は同じであることを強調しておきます。
食料安全の意識が低く、自給率も低い日本において、国内開発者・農家の方を政府は一層優遇すべきです。手厚い補助金を開発者や農家にもっと出す必要があると考えます。
また「開発者と農家の方との直接契約による成果報酬」という道もこの動画のディスカッションでは示されています。
向けるベクトルを「開発者VS農家」という分断に持っていくのではなく「開発者&農家」の共生の道を試行錯誤して探していくべきであり、国家がその食料安全・保障の観点から実際の補助金などを通して、責任を持ち、進めていく必要があると考えます。